黒い宇宙空間に浮かぶ青い地球。人類として最初に宇宙に飛び出した宇宙飛行士ガガーリンは「地球は青かった」といいました。日本人として二度も宇宙を旅した毛利衛さんは「国境線はみえません」といいました。こんな宇宙からの視点が、私たちに重要なことをいくつか教えてくれました。そんな中でも、私には、相反する2つの視点が、大切に思えます。
一つは、ひと目で全体を見わたす、という視点を提供してくれました。多くの人にとって地球のイメージは、現在では、宇宙からみたものになっています。それも、アポロ宇宙船がとった、地球の全景だ多いのではないのでしょうか。それほど、宇宙からの情報は、共通の知識、あるいは常識として、私たちの日常生活にはいりこんでいるのです。つまり、「宇宙から見た地球」が身近な存在になっています。
宇宙空間に浮かぶ丸い地球をみせれば、誰でも、地球が丸いことがわかります。また、その地球が、青いこと、国境線がないことも、一枚の衛星画像からわかります。まさに「百聞は一見にしかず」です。宇宙から見た一枚の画像に非常に多くの情報が盛り込まれていたのです。視点を変えること、それも今まで見れなかった全体像を提供することによって、だれでもひと目で理解できるということを、たった一枚の衛星画像が象徴的に示してくれたのです。
地球が、丸いこと、青いこと、国境線がないことを知るためにわざわざ宇宙に行く必要はないのです。地球の表面からでも、十分知ることができます。私たちは、日ごろ、自分の足で歩き、自分の身長程度の高さの視点で身のまわりを見ています。これが、日常的な私たちの視点です。そんな視点でも、地球がまるいこと、そして国境線がないこと、そして青いことも知ることができます。しかし、それは一目瞭然とはいきません。多くの知恵や知識の積み重ねで、それがわかってきます。まさに「地道(じみち)」な積み重ねです。
でも、宇宙からの視点では、誰もが、一見して納得できる知恵を授けてくれたのです。これは地道に対して「天道(あまみち、と呼びましょう)」とでもいうべきことかもしれません。一瞬にして、全体を、誰でも理解させてしまうような方法だってあるのです。宇宙からの視点は、「地道」のほかに、「天道」があることを教えてくれたことのではないでしょうか。
もうひとつ、宇宙からの視点が教えてくれることは、自分たちの生(なま)の視線と宇宙からの視線には、大きな開きがあるということです。「地道」と「天道」には大きな開きがあるのです。「宇宙から見た地球」は、身近なものといいましたが、本当に身近になっているでしょうか。もしかしたら、それは、テレビやメディアから伝えられるその他多数のニュースの一つ、あるいは自分とはあまりにもかけはなれた現実と、思っていないでしょうか。現実の情報なのですが、「地道」と「天道」とは、あまりに離れているので、現実感がないのです。それは、自分たちの生の視線とは、等身大の視点、つまり「人道(ひとみち、と呼びましょう)」というべきもだからでしょう。
宇宙空間に浮かぶ地球を見た瞬間に、地球とは、宇宙と人の狭間(はざま)に存在するものとなったのではないでしょうか。
図鑑で、ライオンやキリン、ゾウをいくらみても、実物をみなければ感じられないこともあるのです。宇宙から見た地球も、図鑑のライオンと同じはずです。でも、それを補って実在化させるのが、上で述べた方法、「地道」な方法です。多くの知恵や知識の積み重ねでつくりあげる「地道」な方法を、今こそ使うべきです。
このページでは、宇宙からの画像と、地表からの画像が掲載されています。宇宙の画像は、「天道」にあたり、地表からの画像は「地道」にあたります。それに加えて、それぞれの地域にまつわる私自身の考え、経験、見方、そして地質学的な情報も加味して、エッセイも掲載します。いってみれば、私個人の視点ではありますが、「人道」の視点というものにあたるかもしれません。もし、このエッセイという視点(人道)と、地上からの視点(地道)、宇宙からの視点(天道)が、なんらかの形で融合して、読者や閲覧者に、さまざまな視点で見た地球に興味を抱いていただいければ、このページの目的は達成できます。
ぜひ、宇宙から見た地球、人から見た地球など、そして宇宙と人とはまざにいる地球のさまざまな姿を味わってください。
2002年12月 雪の合間の青空をのぞかせる北の大地にて 小出良幸
【プロフィール】大学の学部、修士課程、博士課程では、地質学を専攻した。日本学術振興会特別研究員と して、地球化学を専門として研究した。1991年4月から、神奈川県立生命の星・地球博物 館主任研究員として、地質学と科学教育学を専門として研究をおこなった。2002年4月よ り、札幌学院大学社会情報学部教授として、地質学と哲学、教育学の融合を目指して研究 している。このホームページも、その融合の一環である。