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03 宇宙から地球へ  

 2月1日午前9時00分(日本時間2月1日午後11時)、地球への帰還途中のスペースシャトル、コロンビア号が、空中爆発しました。異常が検知されてから、たった7分間のできごとでした。この事故で、7名の宇宙飛行士が、亡くなられました。ご冥福を祈ります。人為あるいは不可抗力などの原因は、これから究明されるでしょうが、根源的な原因は、高速で大気圏に突入すると、大気との摩擦によって高温になることです。そんな大気を突き破ってくるものがあります。


画像-1 メテオー・クレータ衛星画像(2001年5月17日観測のASTER/VNIR)

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 ASTERによる衛星画像は、クレータを中心に10km四方程度を切出したもので、シミュレーション・ナチュラルカラー画像です。画像が赤っぽくなっているのは、周辺の岩石や土壌が、風化による酸化で赤茶けているためです。原野にあいた大きな穴、クレータ。クレータは、宇宙から地球へ来るものがいたこと、そしてこれからもいることを物語っています。

画像-2 鳥瞰画像(2001年5月17日観測のASTER/VNIRおよびDEMデータを用いて作成)  

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 高度1,000メートルから見下ろした鳥瞰図です。DEM(デジタル標高モデル、Digital Elevation Model)データとシミュレーション・ナチュラルカラー画像を合成して作成したものです。高さ方向に1.5倍に強調していますので、立体感が強調されて、クレータの地形がよくわかります。

図-1 画像位置図

 宇宙から、地表にたどり着くのには、大気が抵抗となります。大気に突入してきた物質は、高温になります。小さなものが高速で突入してきたら、たいていは燃えつきてしまいます。そんな現象が流れ星です。流れ星は、地表に落ちることなく途中で消えてしまいます。別の見方をすれば、大気が地球のバリアとなっているのです。

 粒が小さくスピードの遅いものは、漂いながら、燃えることなく、地表まで落ちてきます。このような宇宙から落ちてくるチリを、宇宙塵(うちゅうじん)と呼んでいます。古くからあるビルの屋上を、箒ではいて、チリを集めると、なかにたくさんの宇宙塵が見つかることがあります。人には見えないほど小さいけれども、宇宙からの飛来者が、私たちの身近にいたのです。このような宇宙塵は、地球に、年間何十トンもふってくるという試算もあります。飛来者は、小さいけれどたくさんおりてきていたのです。

 大きなものが、宇宙から大気に突入してくると、高速であっても燃えつきることなく、地表まで達することがあります。これが、隕石です。隕石の「隕」とは、高いところから落ちるという意味です。ですから、隕石とは、まさに、空から落ちてきた石という意味なのです。

 隕石が小さいうちは、地表に小さな影響しか与えません。しかし、サイズが大きくなると影響は大きくなります。その結果として、クレータができます。地球の表面には多くのクレータが見つかっています。300個以上がクレータではないかとされ、そのうち198個は隕石の衝突と判定されています。

 私は、いくつかのクレータを訪れたことがあるのですが、中でもメテオー・クレータ(バリンジャー・クレータとも呼ばれます)は、印象的でした。

 アメリカ合衆国アリゾナ州、荒野の真ん中に、忽然と丸いクレータが現れます。メテオー・クレータ(Meteor Crater)のメテオーとは、隕石という意味です。隕石によってできたクレータという名前です。名前が示すとおり隕石によってできたクレータで、世界で最初に隕石によるものと認定されたものです。

 1886年に、変な形をした鉄の破片が、クレータの西のキャニオン・ディアブロ(Canyon Diablo)というところから発見されました。これが大学に持ちこまれ、分析され、91%の鉄と7%のニッケル、0.5%のコバルトと少量のプラチナやイリジウムなどが含まれていることがわかりました。1905年に、バリンジャー(D. M. Barringer)は、このクレータが、鉄隕石がぶつかってできたものであると報告をしました。

 技術者でもあり法律家でもあったバリンジャーは、政府の許可をとり、1904年から、このクレータで鉄の採掘をはじめました。バリンジャーの発想は単純でした。周辺に大量の鉄隕石が散らばっているから、クレータの底には、もっと大きな鉄の塊があるはずだ、という考えです。それを掘りだせば、鉄として売って儲けることができるというわけです。ところが、いくら掘っても鉄の塊には、行き当たりませんでした。鉄隕石は、クレータの奥にめり込んだのではなく、ばらばらになって散らばったのです。最終的には、周辺からは、約30トンの鉄隕石が回収されています。

 メテオー・クレータの直径は、1,186mあります。このようなクレータをつくるためには、どれくらいの大きさの隕石がぶつかったのでしょうか。衝突のエネルギーは、質量に比例し、速度の2乗に比例します。大きくて、速いものが地表に衝突すると、爆発のような現象がおきます。鉄は重いので、小さくても威力があります。最高速でぶつかったとすると直径30m、いちばん低速だと直径90mの鉄隕石がぶつかれば、これくらいのクレータができます。

 地球の表面には、たくさんのクレータがあります。その大部分は、陸地で見つかっています。陸地のクレータは、浸食や風化、地殻変動で、古いものは消されていきます。それなのに約200個ものクレータが見つかっているのです。陸地は地球の表面の3分の1しかなく、あとは海です。海の中のクレータはほとんど見つかっていません。ですから、この200個のクレータとは、地球のクレータのほんの一部に過ぎないのです。

 メテオー・クレータをつくったような衝突はめずらしいものではなく、1000年に1回ほどの頻度でおこっていると考えられます。そのときに起きる振動は、マグネチュード6.7の地震に匹敵します。メテオー・クレータの衝突は、約5万年前におこりました。この後現在まで、50回ほど、この程度の衝突はあったことになります。

 宇宙から来る小天体の衝突や小さなものの落下は、普通におこっている現象なのです。これが太陽系の普通の姿なのです。地球は、そんなところにあるのです。  

2003年3月1日

 

 

写真-1 メテオー・クレータ全景  

 メテオー・クレータの北の崖の受けから、クレータを見下ろす位置から撮った写真3枚を合成したものです。クレータは、風化や侵食をあまりうけておらず、5万年たった今も、なまなましいクレータの地形が残っています。そして、その衝突のすざましさを目の当たりにできます。

写真-2 メテオー・クレータ中央部  

 メテオー・クレータの中央には、廃棄された建物や設備、そして踏み跡がくっきりと残されています。これは、バリンジャー氏らが鉄隕石探査のためにボーリングをした残骸です。まさに、「夢の跡」です。いまは、一般の人は入ることができません。

 

写真-3 アポロ宇宙船

 アポロ計画の指令船がビジターセンターのすぐ横に飾ってあります。これは、アポロの宇宙飛行士たちが訓練として、このクレータを月のクレータに見立てて訓練した記念のモニュメントです。

 

写真-4 鉄隕石  

 ビジターセンターには、大きなキャニオン・ディアブロという名の鉄隕石が展示されて いました。バリンジャー氏が捜し求めた鉄(隕石)は、周辺に散らばっていたのです。

 

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