リモートセンシングの原理を理解するには,光の色と波長に対する知識が欠かせない。しかしながら,とりわけ波長の概念は直感的には理解しにくく,読み物だけでの学習では,生徒に十分な理解を与えることは難しいと思われる。そこで本教材は,光の色と波長の性質を,より楽しく,より体験的に理解させることを目的として作成したものである。
本教材は,リモートセンシングにおけるバンド観測を擬似体験させる実験で,米国NASAのリモートセンシング教育プログラムに採用されているものを参考に作成した。本実験では,まず段ボール箱の中で赤,緑,青の各色の光の下,6つの異なる色の物体がどのように違って見えるかを観察させる。そしてその結果に基づいて,色が分からない紙の色を3色の光の中での観測結果のみから予想させる。この実験により,以下の学習効果が期待できる。
リモートセンシングの理解には,画像に対する知識も必要とされる。本教材は,フリーの画像処理ソフトGIMPを使い,簡単な画像操作を通じてリモートセンシング画像に触れさせ,自分たちの町が画像上でどのように見えるかを観察させることを目的とする。
本教材では,GIMPを使ってASTER画像を観察させる。まずGIMPを立ち上げてASTER画像を開かせ,画像の拡大・縮小・移動の方法をマスターさせる。その際,画像が小さな画素の集まりで構成されていることと座標の概念を理解させ,加えて空間分解能について理解させる。次に,なびウィンドウによる拡大・縮小・移動の方法,情報ウィンドウによるRGB値の表示方法をマスターさせる。そして最後に,地図を参考にしながらASTER画像を観察させ,生徒が識別できた地上物の名前や座標などを表にまとめさせると共に,どの程度の小さい地上物が識別できたか,衛星画像の色とわれわれが知っている色はどのように違うか,について考えさせる。以上により,以下の学習効果が期待できる。
近年,二酸化炭素等の排出による地球温暖化が大きな問題になっている。植生は光合成によって二酸化炭素を吸収し,酸素を排出するので,地球全体における植生の分布を精度よく知ることはとても重要な課題となっている。こうした中,衛星センサは地球全体の植生分布をムラなく測定できる唯一の計測技術として注目されている。本教材では,ASTER画像を使って植生の分布を調べる方法について学ぶ。
本教材では,ASTER画像において植生がどのように見えるかを理解させ,加えて植生指標(VI)の有効性を理解させる。まずGIMPでASTER画像を色分解させ,バンドにより植生の見え方が違うことを理解させる。次に,植生地域とそれ以外の地域から10点ずつ画素を選んでRGB値を調べさせ,各値に対するVIを計算させる。最後に,植生と植生以外の各々についてR,G,B,VIの各ヒストグラムを作成させ,VIが植生分布の把握に有効であることを理解させる。以上により,以下の学習効果が期待できる。
地球の表面は極めて多彩であり,その造形は,時に美しく,時に幻想的であり,時に壮大である。そして,ERSDACでは,地球のユニークな造形を観測したASTER画像を集め,解説を付けて画像集として公開している。この画像集は,生徒が地球や環境に興味を持つための絶好の学習素材になり得るが,画像と解説の羅列のみでは,学習における起承転結の流れがないことや,要点が絞られず,学習目的が曖昧になりやすいこと,などの点で主教材として利用するには不十分な点がある。そこで,ASTER画像集から,砂漠,珊瑚礁,インパクトクレーター・ドーム構造,水の流れ,火山をトピックとして選び,これらを再編成し,さらに高校生にも理解可能なように解説文を修正して本教材を作成した。本教材を通じて,生徒が地球や環境に対し少しでも興味を持ってもらうことが本教材の最大の目的である。
本教材は,砂漠,珊瑚礁,インパクトクレーター・ドーム構造,水の流れ,火山の各テーマについて,それらを観測したユニークなASTER画像を閲覧しながら,成因などを学べるように構成されている。その際,以下の点に留意して作成してある。
なお,オリジナルのASTER画像集には,断層地帯や褶曲地帯,鉱床地域なども含まれているが,地質用語が多く,高校生には難解と思われたので,今回はあえて割愛した。なお,リチャット構造については,その画像がとてもユニークで興味がそそられるため,特別に加えてある。
今日,エルニーニョ現象に代表されるような地球温暖化が問題となっている。日常における地球温暖化の実感としては昔より夏が暑い気がする等,経験に基づくものはあるが,地球全体がどうなっているかについては知る機会は極めて少ない。さらに高校生等の若年層が地球温暖化について考える機会は,学習によって得られる知識しかない。一方,地球規模の温暖化現象を知るためには,今日人工衛星から送られてくる温度情報が欠かせないが,そのしくみを知る人は一部の研究者を除き,大変少ないであろう。以上のような背景から,将来地球温暖化防止の先頭になって活動するであろう高校生に,人工衛星から送られてくる温度情報をどのように処理すれば,広い地域の温度情報を得られるか,とりわけ我々の行くことが難しい海洋においての水温調査のしくみを学習することが目的である。
本教材は,まず水銀温度計に代表される接触温度計のような身近な温度計から,「温度を計る」ということの意味を再認識させる。そして広い空間を計るツールとして,衛星に搭載されている「放射温度計」という機械の特殊性やしくみを平易な言葉で説明し,最後に衛星データから実際に温度を計算する作業をWeb上で行うことができるのが特徴である。特に衛星データから実際に温度を計算させる作業工程では,昨年度当委員会で作成した教材で使われた「Gimp」のような画像処理ソフトを使うことなく,誰でもわかりやすく衛星が観測したデジタル値から温度を変換できるような工夫をした。その際には,プランクの式等,温度変換において物理的な意味を考えさせる又はその意味を損なうことのないよう注意を払った。また,本教材のはじめには,学習の「導入」として「温度って何?」という質問コーナーを設け,生徒が自発的に「温度」や「温度の計測」ということに対して興味を持つようにしたり,最後のWeb上での学習試験においてはクイズ感覚で本学習の復習をすることができるという工夫も施した。
近年,赤潮や土砂流出等,沿岸の環境問題が大きな問題となっている。沿岸域は我々の生活に密接にかかわっているにもかかわらず,赤潮発生のメカニズム等その実態については一般にはほとんど知られていない。また,陸域と異なり,海域の調査には船や調査機器等,特殊な装備が必要であり,一部の海洋学者しかその実態を調べることは難しいのが現状である。一方,衛星画像は誰でも入手することが可能であり,かつ沿岸域の水色を現場に行くことなく,調査することができる。以上の背景から,本教材では衛星画像を使って,沿岸環境問題について考える基礎となる,水の濁り調査の方法について,学習することが目的である。
本教材は,まず赤潮や土砂流出等沿岸環境に悪い影響を与えるような現象を,具体的な事例写真を挙げながら「水の色」という観点から考えさせる。そして,衛星から水の色を計るしくみを学習しながら,最後に衛星データを使って,河口から沖までの水色変化を衛星観測デジタル値(土砂の量に相当)をプロットすることにより,水の濁り調査を体験するという展開である。本教材作成上最も苦労したのは,衛星データを使って水の濁りを定量化するアルゴリズムが現状ではないことから,衛星データをどのように水の濁りと関係付けるかという点である。本教材では,「河口水の反射率(衛星デジタル値に相当)が上がれば,水の濁りも増す」という研究結果から,河口において「デジタルカウントの変化から相対的に水の濁りの変化を読み取る」ような展開上の工夫を行った。
地籍調査への理解,地球環境問題解明の観点から,土地分類調査は重要である。しかしその実態はあまり知られていない。また,近年急速に高解像度化している衛星による土地分類技術は一般にはほどんど知られていない。このような背景から,本教材では,衛星画像を使った土地分類調査方法(分類のしくみ)について学習することを目的とする。
本教材では,まず「班田収授の法」や「地租改正」等の歴史の授業で学んだ知識を生かしながら,土地分類の意味を考えさせる。そして,地形図を利用したスタンダードな土地分類図作成方法を学習し,最後に衛星データを使った分類方法についてデジタル値強度の分光特性を図化させることにより,土地分類が画像から可能であることを学ばせる。衛星画像は土地被覆の分光特性のみで土地分類をさせるので,国土地理院発行の地形図を使って分類する方法に比べ分類制度が劣る(又は分類に限界がある)ため,教材では典型的な土地被覆のデジタル値を使って,衛星データからも土地分類が可能であることをわかりやすく学習するように工夫した。
地震は我々の生活に非常に身近な現象でありながら,地震に関する知識は意外に少ない。地震に対する意識を高めるためには,衛星画像を使った活断層調査等,地震に関係する事象に興味を持つことが必要だと考えられる。このような背景から,本教材では衛星画像を使った活断層調査の学習を行い,活断層調査を通して地震に関する関心を高めることが目的である。
本教材は,まず最近あった有名な地震の事例を写真等を使って説明し,地震が起こるしくみ,そしてそれが活断層と密接な関係にあることをわかりやすく説明している。また活断層はリニアメントと呼ばれる線形の地形構造を見つけることが発見の手がかりだという展開にすることにより,高校生でも簡単に活断層調査ができるという印象を与える。最後に静岡県の伊豆半島をテストサイトとして,実際に活断層を見つけるためのリニアメント探しを行う作業をさせ,活断層調査を実感できるように工夫した。
身近な環境を赤外線の目を通してみることによって、環境の快適性やエネルギーの問題、あるいは地球環境問題に関心を深めてもらう。これにより、衛星画像を題材とした各種教材テーマのより深い理解の一助とすることを狙う。
「宇宙からの地球観測」の考察だけでなくごく身近なテーマをリモートセンシング技術で探っていくというスタンスも必要と考え、サーモグラフィによる熱映像から読み取れる内容を中心に構成した。教材の前半では、身の回りの熱の挙動を感覚的に理解してもらい、後半では小学校や鉄道駅、街路空間の表面温度分布の特徴が理解できるように構成した。また、理解の進んでいる学生・生徒を対象として発展教材「サーモグラフィのしくみ」を設けることにより、熱赤外リモートセンシングの原理まで直感的に把握できるよう試みた。